2014年6月9日月曜日

既存の Objective-C のメソッド引数の Swift 上での扱われ方を調べてみた

前置き

こちらの記事には2014/06/09現在、公式にはリリースされていないiOS8プレリリースドキュメントへのリンクが含まれます。iOS8にて新しく追加された内容には一切触れておらずAppleとのNDA規約にも違反するものではないという認識ですが、場合により予告なく削除する可能性があります。予めご了承ください。

本題

iOS8プレリリースドキュメントを眺めていて気になったのですが、ほとんどのCocoaのメソッドの引数に!がついています。例えばNSKeyValueObservingプロトコルのaddObserver:forKeyPath:options:context:メソッドのシグネチャは以下のようになっています。

func addObserver(_ anObserverNSObject!,
      forKeyPath keyPathString!,
         options optionsNSKeyValueObservingOptions,
         context contextCMutableVoidPointer)

第1引数と第2引数に!がついているのがわかると思います。
更にもうひとつ気になったのが、このメソッドの第3・第4引数です。これらは元々0やNULLポインタを渡すことができる引数だったのですが、見ての通り引数が?で宣言されておらず、そのままnilを渡してしまうとエラーになってしまうように見えます。

直感的に考えると、

  • !がついている引数は呼び出し時に強制的にunwrapされるので、nilを渡してはいけない、必須引数なのではないか?
  • !がついていない第3第4引数はnilが渡せないのではないか?

という風に思うのですが、実際には

  • !がついている引数にnilを渡すことができる。さらにnilを渡してもランタイムでクラッシュしない。
    • 今回の例のaddObserver:forKeyPath:の場合はクラッシュしますが、これは元々のAPIがそうだったからで、例えば他のCocoaのAPIで!がついているものでnilを渡しても問題ないものが多数存在します。
  • !がついていないNSKeyValueObservingOptions, CMutableVoidPointerにnilを渡してもコンパイルエラーにすらならず、何の問題もなくそのまま動作する。

このような私の理解とは正反対の挙動をします。大変気になったので調べてみることにしました。

!がついている引数の謎

これについてはそもそも私のSwiftに対する理解が完全に間違っていました。正しい理解は以下のとおりです。

  • 無印型 - nilを渡すことができない。nilになる瞬間が一瞬もない。これこそがnilを渡せない必須引数である。
  • ?型 - Optional型であり、nilを扱うことができる。これについては問題ない。
  • !型 - ImplicitlyUnwrappedOptionalという特殊なOptional型であり、Optional型なのでnilを扱うことができる。すなわち!が付いている引数については任意引数でありnilを渡すことができる。
    • !も?も演算子でも命令でもなく型であり、!や?をつけることで対象を型に包んでいる、と考えれば良いと思います。
    • !と?の違いはメンバにアクセスした際に暗黙的かつ強制的に元の型にアンラップされるか、そのままOptionalとして扱われるかの違いだけです。

ではなぜCocoaのAPIは引数で?ではなく!を使ってnilを受け取れるようにしているのでしょうか?これは引数を受け取った後に、その引数にアクセスした場合の挙動がおそらく影響しているのではないかと思われます。以下の例を見てください。

こちらのコードですが、safeSwim()メソッドが旧Objective-Cと完全に同じ挙動を示します。これは以下の様な理由によるものです。

  • self.name(!型)が?型によってラップされる。
  • self.name?の.descriptionにアクセスする。このとき?型によってラップされているので、self.nameがnilであれば何も起こらず、self.nameがnilでなければまず?型からアンラップされ、次に強制的に!型からアンラップされ、その結果通常通りdescriptionが呼び出される。
  • 通常だと?型の返り値は?型にラップされてしまうが、self.nameが!型なので強制的にアンラップされ?型ではなく素のString型を返すことができる
    • ここだけよく理解できてないです・・・

間違っていたらすみません(´・_・`)

とにかくこれこそが旧Objective-CのAPIについて!で型が表現されている理由ではないかと考えています。

!がついていないのにnilが渡せる引数の謎

こちらの謎はカラクリがわかってしまえば簡単です。前回の記事をご覧になった方はお気づきになったかもしれませんが、これらの型はAppleが__convertion()メソッドをNilTypeに対して追加しているため、nilを問題なく扱うことができます。

まとめ


  • !が付いている引数は?と同様にnilを渡しても良い引数である。nilを渡せない必須型は何もついていない引数のみである。
  • !はImplicitlyUnwrappedOptionalという特殊なOptional型であり、アクセス時にOptionalではなく強制的に元の型を返す点がOptionalと異なる、と考えれば理解しやすい。
  • 変数をすべて!で定義し、メンバアクセス時に常に?をつけるようにすると、どの変数にもnilを渡すことができ、実行時にnilがあればそこで実行がスキップされ、さらに返り値もOptionalではない通常の型にできるため、旧Objective-Cとほぼ同じ挙動になる。
    • ただしSwiftで新しく用意されているAPIを見る限りnilを扱う必要がある箇所については可能な限り!ではなく?を引数や返り値に使っているように見えるため、新しくSwiftで書く箇所については!を乱用するべきではないと思われる。
  • Cocoaの用意している型のうち、元々nilやNULLや0を渡すことができた型については、NilTypeに__conversion()メソッドが追加されているので、そのままnilを渡すことができる。

Swift で __conversion メソッドを使ってカスタムの型変換を定義する方法

2014/10/21追記:
Xcode 6.0 beta 6以降、__conversion()を使った暗黙的なas演算子を用いた型変換はサポートされていません。Xcode 6.1(Swift 1.1)現在、暗黙的な型変換を行う手段はないため、型変換を行いたい場合はイニシャライザを定義する方法を取るのが通例として良いと思います。

class 変換対象の型 {
  init(_ obj: 変換元の型:) -> 変換対象の型 {
    return 適当に変換対象の型を返す
  }
}



Swiftではas演算子を使ったり、型の定義されている変数・定数へ代入したり、メソッド呼び出しの引数にオブジェクトを渡す際に型変換が行われますが、デフォルトでは対応していない型変換があったりします。例えばStringはasを使ってもIntに変換することはできません。

また、SwiftではnilはNilTypeという型のシングルトンとして実装されており、nilを渡すとNilTypeから当該型への型変換が行われるようです。?(Optional)型や!(ImplicitlyUnwrappedOptional)型はNilTypeからの型変換に対応しているからnilが代入でき、それ以外の型は対応していないためコンパイルエラーになるというのがカラクリのようです。

この型変換ですが、__conversion()というメソッドを変換元の型に実装することで、任意の型変換を自分で実装する事ができます。以下のようになります。
class 変換元の型 {
  //@conversion属性は付けても付けなくても大丈夫みたいですが、一応つけます
  @conversion func __conversion() -> 変換対象の型 {
    return 適当に変換対象の型を返す
  }
}
以下にNilTypeを使ったnilからカスタムクラスへの型変換サンプルを示します。こうすればnilを引数にとってもエラーになりません。

ご覧のとおり、extensionとの組み合わせで既存のクラスも含むどのような型からどのような型への型変換にも対応可能になりますので色々はかどります。ぜひご活用ください。

2014年6月6日金曜日

Swift の enum型を for-in でイテレーションする方法

例えばJavaのEnum型などはそのまま以下のようにイテレーションすることが可能なのですが、

なぜかSwiftのenum型はそのままではイテレーションすることができません。対策としてGeneratorという仕組みが標準ライブラリに用意されてますので、それを使ってenumをイテレーションできるようにします。

具体的には、Generatorを継承したクラスを作成して next() -> Element? を実装してください。ElementはAnyObjectのtypealiasなので実際には好きな型を返していただければOKです。あとはSequenceOf<T>型でGeneratorをラップしてあげればOKです。next()メソッドがnilを返すまでSequenceOf<T>はイテレーションを続けてくれます。

以下にサンプルコードを示します。

Generator内部でyieldが使えれば便利なんですが、おそらくyield構文は無さそうです。Enum型を一覧したい場合以外にもGeneratorは便利に使えますのでぜひお試しください。

Swift を使ってみてがっかりした点まとめ



数日間iOS8/Xcode6/Swiftな環境で色々試してみて、Swiftを使っていて思ったよりがっかりした点が多かったのでちょっとまとめてみようと思います。

動的な処理がSwiftだけでは一切できない

[NSObject performSelector:]の類と、NSInvocationがSwiftからは一切呼び出せません。使おうとすると怒られます。objc/runtime.hは試していませんが、同様に直接Swift経由では呼び出せず間にObjective-Cをかます必要があるのではないかと思われます。

@optionalなprotocolが限定的にしか使用できない

具体的には@objc属性を付けないと使えません。しかしながらこのような後方互換性のためだけに存在する属性をいつまでもAppleがサポートするかは疑問が残るというのと、もう一つ以下の様な問題があります。

@objc属性のついたSwiftの型はただのObjective-Cクラスになる


こういう問題があるのであまり使いたいとは思えません。ちなみになのですがCocoaのクラスはほぼすべて@objc属性が付いているため、それを継承して使うことになるアプリでは事実上Swiftの本来の能力を出せないのではないかと思っていますが、実際のところはわかっていません・・・

メモリ管理が相変わらず必要

Swiftのメモリ管理はGCではなくARCでありただの参照カウント方式にすぎないため、Swiftでも循環参照が発生しないようにプログラマが明示的に参照の種類を指定しなければなりません。その上Objective-Cでも存在したstrong, weakに加えunownedという新しい種類のメモリ管理が追加されています。これはweakは参照が消滅するとnilにするという挙動であるためOptional型を使わなければならないのに対し、unownedは参照が消滅してもnilにならない代わりに通常の型がそのまま使えるというもののようです。

closureでselfをキャプチャするときの循環参照対策が相変わらず必要

いちばんがっかりしたのがこれです。Swiftはdelegateよりもclosureを使ったcallbackのほうが言語構造上向いているためclosureを大量に使うことになると思うのですが、このときselfがclosureを強参照し、closureがselfをキャプチャするようなコードを書いてしまうと、循環参照になるためメモリが開放されなくなるという問題がObjective-Cから引き続き発生します。対策としてclosure capture listと呼ばれる新たな構文が追加されています。closureの先頭、引数宣言の前に[unowned self]のような構文を追加することで、selfをunownedとしてキャプチャすることができます。

以下に使用前・使用後の例を示します。

Objective-CのweakSelfよりはマシに思えますが、とはいえこの辺りはコンパイラが自動的に対応してほしいところです(´・_・`)

2014年5月26日月曜日

Android で 画面の回転や状態の復元まで考えた Fragment の使い方のガイドライン(自分用メモ)

Fragment を使った画面を作る際に、どのように作ればうまい具合に画面の回転や状態の復元を扱えるかという自分用のメモです。

最初にまとめ

  • 基本方針として可能な限りすべての管理を当該ActivityのFragmentManagerに任せると楽
  • ActivityのフィールドとしてFragmentを保持するのはバッドノウハウな気がする
  • onCreateとonDestroyが呼び出されたからといってインスタンスが生成破棄されているとは限らない、これらはFragmentManagerのタイミング次第
最終的に実装したコードは以下のような感じになりました。

今回の発端

ActionBarのタブに2つのFragmentを格納し、片方はListView, もう片方はGoogle MapsのMapViewを突っ込むようなUIを作っていたのですが、Androidは素人なもので普通に作っていると画面回転とタブの切替時にうまいこと状態を復元するのがなかなか手こずってしまいました。というわけで良いプラクティスを考えてみることにしました。

Activity と Fragmentのライフサイクルを復習

Activityは画面回転時に一度破棄されてしまいます。このような場合はActivityのFragmentManagerが現在管理しているFragment(バックスタックに入っているものが含まれるかどうかは未検証)については、Activity破壊時にFragmentManager経由で自動的にonSaveInstanceが呼び出され、Activity復旧時に自動的にonCreateとonCreateView経由で復元が試みられます。

これとは別に、Activityは破棄されないがFragmentは破棄されるケース、例えばActionBarのタブを切り替えたりNavigationDrawerを選択するなどして同一のActivity上で別の画面Fragmentに遷移する場合もあります。

上記いずれの場合も、可能な限りテキストビューの入力内容やリストのスクロール位置、地図のカメラ位置などを保持することをユーザーから期待されるため、状態の復元が必要になります。画面を回したりタブを切り替えたらスクロール位置が先頭に戻ったらユーザーはイライラするでしょう。

状態の保存はBundleとonSaveInstanceStateを使い、復元はonCreateとonCreateViewを使うのが楽です。

解決策

画面回転などActivity自体の破棄と再生成が自動的に行われるケースであればFragmentManager管理下にあるFragmentについて自動的に再生成が試みられるため大して難しくはないと思います。タブを切り替えたりするケースについては、以下のいずれかが良さそうな気がしています。
  • 解決策1: すべてのFragmentをFragmentManagerにattachされた状態のままにし、タブが切り替えられたら見せないFragmentはhideする
  • 解決策2: 必要に応じてFragmentManagerにattach/detachを行い、そのかわり自分でBundleを作りonSaveInstanceStateを呼び出す
1のメリットはタブ切り替え時に復元がそもそも発生しないため管理が簡単です。確実に動作しますし、再生成も必要ないためパフォーマンスも良いです。デメリットはFragmentおよびFragmentが抱えるView構造をすべて保持し続けるためメモリを大量に消費します。

今回採用した解決策2のメリットはタブ切り替え時にFragmentのView構造をすべて捨てるためメモリが効率的です。MapViewはどうしてもメモリを大量に使うためいくらhide状態とはいえあまり他のタブの後ろにおいておきたくはなかったのでこうしました。デメリットはやはり複雑になります。今回はFragmentのインスタンスフィールドとして一時的にBundleを保持していますが、これは正直なぜFragmentがタブから外れてDetachされてDestroyされてるのにメモリ上に残ってるのかわかりづらい変な挙動になるので、Activity側かまたは何らかのマネージャクラスに任せてしまうべきではないかと思います。・・・ってそれがFragmentManagerなんですけど。もっとうまいやり方で出来そうな気がするんですが・・・


2014年4月30日水曜日

Android で Dagger DI を使いやすくするライブラリを書きました

Daggerというsquare社がオープンソースで提供しているAndroid向けDI (Dependency Injection)フレームワークがあります。


これを試しに自分のAndroidアプリで使ってみようと思い立ったのですが、幾つか問題が発生しました。

  • DI自体の概念が難しい
  • そもそもドキュメントを読んでもDaggerの使い方がよくわからない、公式のサンプルを真似してみても正直いまいちわからない
  • AndroidでDIを行うとなるとandroid.content.Contextの注入が必須になるのだが、Contextは動的なインスタンスであるためDIでの取り扱いが難しい

そこで四苦八苦しながら動くようになったものをライブラリとして公開し、少しでも簡単にDIのメリットだけを享受できればと思いまして DaggeredAndroid なるものを作ってみました。

使い方とかはREADMEを見てください。全部英語ですがすみません(´・_・`)

AndroidでDIを使う際のメリットは主に以下のとおりです。

  • オブジェクトをメンバに接続するだけのコードを無くせるので、コード量が減る。
  • シングルトンの取り扱いが楽になる。
  • Contextの取り扱いが楽になる。
  • Moduleを差し替えればインスタンスが安全に差し替わるので、テスト環境を作ったり、本番と開発環境を分離したりなど、環境の差し替えが楽になる。テスト時のみModuleを上書きすることもできる。

2014年4月20日日曜日

Android の TextView.setText() が遅い場合の原因と対処法

AndroidでTextViewを使っている時に、setText()に数百行単位のテキストを渡すとメインスレッドが1秒弱完全に固まってしまうという現象に見舞われてしまいました。昔の2.3端末ではともかく、手元の最新鋭機Nexus 5 (Android 4.4)でこんなに遅いのでは話になりません。しっかりと原因を調査し対処法を考えることにしました。

まずググってみると出るわ出るわ同じ問題。やはりみんな同じ場所で躓いているようです。
しかしながらいまいち具体的な原因がググっても見つかりません。そこでtraceviewを取ってみました。


すると原因が一発でわかりました。android.graphics.Paint.getTextRunAdvances()です。
Nexus 5では高速化のためJNI経由でネイティブ実装が呼び出されているようですが、それでもまだ間に合わないぐらい遅いようです。それもそのはず、このメソッドは与えられた文字の幅を計算するメソッドです。すなわち数百行のテキストのサイズを計算するため時間がかかっているようです。iOSで例えるならCore TextのCTGryphを計算するようなもの、UILabelのsizeThatFitsを呼び出すようなもので、非常に時間がかかってしまいます。

そこで対処法として、setText()でテキスト全体をセットし直すのではなく、TextViewが裏で保持しているテキストの一部だけを書き換えたり追記したりすることで一度に計算されるテキストのサイズの量を減らして高速化する事を考えました。iOSの場合はUITextViewにはsetText相当のプロパティしか用意されていないので、そのようなことをするのはdelegateを経由してみたりUIKeyInputプロトコルを自前で用意したりなどと困難がつきまとうのですが、Androidの場合は最初からTextViewの裏で保持しているテキストを自在に書きなおすための仕組みが用意されています。

そのためにはまずTextViewの裏で保持されているテキストを「編集モード」にしなければなりません。XMLでandroid:bufferTypeをeditableに指定するか、またはsetText()の第二引数にTextView.BufferType.EDITABLEを指定すると、テキストが編集モードで保持されるようになります。

そうするとgetEditableText()でTextViewが裏側で保持しているテキストが編集可能な状態で取得できます。あとはこのEditableオブジェクトに対して好きなように加工を行うだけです。単にテキストを追加するだけならTextView.append()を実行しても同じ結果が得られます。

こうすると数百行程度であればそれほど遅くなくテキストの追加ができるようになりました。しかしながら1000行を超えてくるとこれでも速度が足りなくなるので、自前でTextViewをサブクラス化して作っていくか、またはListViewにして一度に表示するテキスト量を減らすのが良いと思います。